- 著者:
- 野村胡堂
- 朗読:
- 後藤敦
「相対死を助けて貰っても、一人死をさせちゃ、かえって不憫じゃございませんか、親分」娘の苦境に、彦兵衛は平次に乞い拝みます。男の一世一代の頼みでした。
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「相対死を助けて貰っても、一人死をさせちゃ、かえって不憫じゃございませんか、親分」娘の苦境に、彦兵衛は平次に乞い拝みます。男の一世一代の頼みでした。
「八、いやな捕物だったな」平次が関係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無意なのは類のないことでした。「男の屑さ」
炎上する小屋、飛ぶ投げ銭。「男に心引かれたことのないお局のお六が、岡っ引きに癪の介抱をして貰ったばかりに――」平次に惹かれた女の運命や如何に。
「植込みの向うから銭を投って、眼を潰そうとしたのは、銭形の親分に相違ないと思い込んでいるんです」美しいお品は艶やかに涙をこぼしながら、あんまりだ、と訴えます。
与力笹野新三郎の出役をお願いして、浪花屋の主人奉公人一同揃えて「違ったら、違ったと言って貰おうか」平次はひとつの考えを胸に、ズイと一同を見廻しました。
「親分、変な敵討だったね」人を害めれば、必ず敵討に狙われ、一生危険にさらされ通しの自分の生命を感じなければならない時代におきた、妙な事件の顛末です。
大枚五両をはたいて不死の霊薬を味わった八五郎「眼を覚してみると――親分の前だが、あれが本当の極楽というものかも知れませんよ」その歓楽境を不器用な舌で語るのです。
「大文夫でしょうか親分、そんな判じ物みたいな事で」不安気な八五郎に「洒落っ気は人間の癖だ。この狙いが外れたら、俺は十手捕縄を返上するよ」と平次。洞察力が光ります。
「私は、たった一人の母親さえ満足に養えない、意気地のない男です。」自分の腸を叩きつけるような藤六の言葉に、平次も知らず泣かされます。
江戸第一番の吝ん坊の鳴子屋の女主人お釜は、評判の人相見玄々斎が「七日経たないうちに、死ぬ」と言ったその七日目の晩に死に、家中の者はいくらか得をした様子です。
「でも、万一ということがあるでしょう。あっしがその贋金造りを捕えたら、どうなるでしょう、親分」たいそうな御褒美をもらったつもりでニヤニヤする幸せなガラッ八です。
「芭子ちゃん。私たちはもう、ちゃんと罪を償ってきたんだよ」償ったのか。償えたのか。終わったのか。終わっていいのか。終れるのか。犯罪を犯した人の、その後の物語。
神田中の若い男を狂わせ八丁荒らしと言われた魅力の女が殺された。「水本賀奈女をうんと怨んでいた者があったはずだ、心当りはないのか」「そりゃ、たくさんありますよ」
井筒屋重兵衛が頓死する前、秘蔵の骨董が次々と叩き割られる騒ぎがあったという。「怪しい人間は三人ある。」鼻の良い八五郎の話は平次の退屈病を吹き飛ばしてくれます。
質屋吾妻屋金右衛門が殺された。現場の部屋の窓は半分開いていたという。「ところが、窓いっぱいに張った女郎蜘蛛の巣があるだろう」「すると?」「曲者は家の者だ――」
何事もなく終わった秤座守随家の騒動をすっかり八五郎から聞いた平次「面白いな、八」「ヘエ、――面白いんですか、――これがね」「ただの悪戯や脅かしじゃあるまい、俺も行ってみよう」
八五郎が日本一キナ臭い顔をして言うに、届いた手紙にあったのは「二千両という大金を、この春処刑になった大泥棒の矢の根五郎吉が、このあっしに形見にやるという文句だ」
「親分、助けて下さい」ガラッ八のところへ飛込んで来たのは「何だ、植木屋の松さんじゃないか」松五郎は越前屋大番頭生首事件にかかわる意外な事実を打ち明けたのです。
「二年前に死んだ人間が人を殺した?」「その上まだまだ四五人は殺してやるというんだから大変で――」「誰がそんな事を言うんだ?」「二年前に殺された人間ですよ
「勝造さん親娘と、菊之助さん夫婦は、何を企むか、解ったものじゃございません」御新造のお信が怪死、若主人総七の身を案じる越前屋番頭徳三郎をなだめる平次でしたが・・・