- 著者:
- 野村胡堂
- 朗読:
- 後藤敦
「私の大事の大事の、命より大事の手箱が無くなった」騒ぐ女に中身を聞くと、海雲寺様の富籤が一枚入っているという。「外には」「外には何にもありゃアしません」
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「私の大事の大事の、命より大事の手箱が無くなった」騒ぐ女に中身を聞くと、海雲寺様の富籤が一枚入っているという。「外には」「外には何にもありゃアしません」
「誰です、その下手人は」「手前だけに言っておくが、あの肥っちょの、ニヤニヤした野郎だよ」「えッ」平次の推理当たるや当たらざるや・・・!?
「親分、子さらいが流行るんだってネ」八五郎が噂する間にも、また一人。「俺の縄張うちへ来ちゃ放っておけまい」しかしこのたびの件は、流行りの人さらいとは様子が違います。
「お政が来たはずじゃないか」「でも、それは勘定に入らないでしょう。殺された人ですもの」「なるほど、そう言えばその通りだ」・・平次は謎めいた言葉とともに苦笑します。
「この下手人は、三輪の兄可が晩んだ板倉屋でもなきゃ、名乗って出たお前でもないのさ。まアまア俺に任せておきな」細工は流々仕上げを御覧じろ、の平次であります。
「――不景気と言や、親分、近頃銭形の親分が銭を投げねえという評判だが」とはガラッ八の減らず口。・・お待たせしました。平次の颯爽たる投げ銭の技、お楽しみください。
「それでも文句を言うなら、結納の代りだとか何とか、いい加減な事を言って、これを見せるがいい」平次は何やら風呂敷に包んだ品をガラッ八に持たせ、策を授けるのでした。
「親分、驚いたぜ、――御用間がなぐり込みの片棒をかつぐなんて」「シッ、黙っていろ、――これは御用間の仁義さ。」平次の慧眼と男気、ガラッ八とのかけあいの光る一作です。
振られ男の徳松。義姉のお吉。継父の弥助。お菊殺しの下手人はつごう三人になりました。御用聞・三つ股の源吉も、さすがに三人も奉行所に送るわけにもいきません。
「あれが自殺だというんですかい、親分」驚くガラッ八。人間は、自分の頸を絞めて死んでしまってから、池へ上半身を突っ込むなんて器用なことが出来るはずもありません。
平次は重大な謎を投げかけました。それを解けるのは、いつぞや平次が女房のお静に髭を当らせているのを見たガラッ八だけかもわかりません。
「相対死を助けて貰っても、一人死をさせちゃ、かえって不憫じゃございませんか、親分」娘の苦境に、彦兵衛は平次に乞い拝みます。男の一世一代の頼みでした。
「八、いやな捕物だったな」平次が関係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無意なのは類のないことでした。「男の屑さ」
炎上する小屋、飛ぶ投げ銭。「男に心引かれたことのないお局のお六が、岡っ引きに癪の介抱をして貰ったばかりに――」平次に惹かれた女の運命や如何に。
「植込みの向うから銭を投って、眼を潰そうとしたのは、銭形の親分に相違ないと思い込んでいるんです」美しいお品は艶やかに涙をこぼしながら、あんまりだ、と訴えます。
与力笹野新三郎の出役をお願いして、浪花屋の主人奉公人一同揃えて「違ったら、違ったと言って貰おうか」平次はひとつの考えを胸に、ズイと一同を見廻しました。
「親分、変な敵討だったね」人を害めれば、必ず敵討に狙われ、一生危険にさらされ通しの自分の生命を感じなければならない時代におきた、妙な事件の顛末です。
大枚五両をはたいて不死の霊薬を味わった八五郎「眼を覚してみると――親分の前だが、あれが本当の極楽というものかも知れませんよ」その歓楽境を不器用な舌で語るのです。
「大文夫でしょうか親分、そんな判じ物みたいな事で」不安気な八五郎に「洒落っ気は人間の癖だ。この狙いが外れたら、俺は十手捕縄を返上するよ」と平次。洞察力が光ります。
「私は、たった一人の母親さえ満足に養えない、意気地のない男です。」自分の腸を叩きつけるような藤六の言葉に、平次も知らず泣かされます。